小野寺 弘祐(おのでら こうすけ)

 

和食と日本酒とワイン、日本茶のお店『そな田』代表

 

1975年生、札幌市出身同市在住。小さいころから「なんで?」と「どうして?」を繰り返しまわりを呆れさせる。2010年札幌の西に和食と日本酒とワイン、日本茶のお店『そな田』を開店。女性の本音収集家。独身(ノンキャリア)

 

 

 

「分析なんてしないで」

 

そう呟いたのは女性で、しかも彼女は僕の友人の意中の方でした。確か4回目のデートで、時間が夕方を夜中へ押しやりかけた頃、もうすこし関係を前へ進めたいと思った彼の話題は、彼女への質問が多くなっていったそうで。
どういう男性が好みなのか。
この先結婚したいという気持ちはあるのか。
そして――彼のことをどう思っているのか。
「そんな矢継ぎ早に質問して――」という僕の言葉を遮ってまで「でも分析は大事だよ、誰だって買う前の車や、行く前の料理屋の評判を調べるだろ」と彼が続けたのは、その頃の結婚生活に公な区切りをつけていたことも無関係ではなかったでしょう。

 

今回のお話を頂いた時、まず彼のことを思い出したのはどういうわけか。

 

――冒頭から話がそれました。

 

北海道に暮らして、気づけばレストランを持ち、9年目。この地には4つの風が吹きます。
冬景色は綺麗ですが暴風雪は軽々と人の命をおびやかし、桜の咲かない春は、その償いに陽に温められた風が氷雪を解かして僕たちの気持ちを軽くさせ、避暑地として喜ばれる夏の風は最近なら湿り気を含んで汗を拭う女性の横顔を艶やかにし、秋の山風は密かに夏の空気を乾かし始める。

 

ここでの生活はその風とどう過ごすかと言うことです。たとえば夏、僕なら青天の、しかも陽のてっぺんから少し下ったあたりに近所の蕎麦屋へ出かけるのが好きです、とてもいいです。つっかけ替わりの白サンダルでじりじり灼けつく、古いアスファルトのくぼみに見える土から名のない草が生え、その周りをうろつく蟻の、およそ見当のつかない仕事を見やりながら歩をすすめるわけです。

 

そうして蕎麦屋の暖簾をくぐったなら瓶ビールを頼んで漬物みたいな小品でちびちび飲むのが好みです。気の利いたお店なら差し込む陽のむこうに揺れる街路の緑が見えますから、それを頼りに、最近あと回しにしていたことへ思いを巡らせます。または、渇きのおさまった喉に日本酒を流して、酔いを深める日もあります。この、酒飲みのための美しき蕎麦屋の情緒は、休日前の深夜に襲う、あのでたらめな空腹に抵抗し、休日の早起きを唯一可能にする手段だと言っていい。

 

おおげさか。

 

それで蕎麦は好きなものを。もりでも、鴨せいろでも、二八か田舎か更科か。気ままに。

 

今は、問えば色々答えを提案される時代ですが、僕の知っている極上の北海道の夏とは、ただ蕎麦屋でほろ酔うこと。自分が欲するものは自分で決める。というのは僕の信じた人の言葉です。ああ、また話がそれる。

 

でも――そうか。と気づきます。

 

冒頭の友人は彼自身が「誰かを欲しているか」という自問を一度もしなかった。人と暮らした後の痛みがまとわりついたまま、誰かを求めようとしたら無理がたたった。自分で決めることを避け、答えを望んだら相手への質問だけが増えていった。だから、ひとこと彼女は気持ちを言葉にしたのかもしれない。“分析なんてしないで” と。しかしこれは拒絶の言葉ではなく。そのあとにこう続いたのではないか。「あなたの気持ちのままに」。

 

今、来道予定のある方が、それが旅や移住のどちらだとしても、この果てない土地に吹く4つの風とすごしながら、ご自身にしか見つけることのできない居心地をさがしてみてはいかがでしょうか。手軽に得られる評判や提案とは少しだけ距離をとって。

 

なぜなら北海道の魅力の正体とは、この地にかつて居た人々の ―― それが名もなく目立たない暮らしだとしても―― この風と共に、それぞれの意思と勘のみを頼りに前へと拓きつづけた人間の営みそのものであり、それらがいつしか希望と言う塊に姿を変えて風土に馴染み、北海道命名から150年という時間の水源になったものではないか、と思い至るからです。

 

ようこそ。

 

 

( 絵 / Midori Kambara ) 

 

 

 

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