北海道の人の大半は、さかのぼれば日本のどこかからやってきている。

 

私のひいじいちゃんは明治時代に香川県から帯広のあたりにやってきたらしい。子供のころ、鍛冶屋をやっていたじいちゃんの家の工場でワンワン唸る大型のグラインダーをワクワクしながら見ていたことを覚えている。

 

北海道の人には、おのずと旅人気質、新天地好きみたいなものがDNAに組み込まれていて、それがもとで常識にとらわれない自由な発想や行動ができるんだと思う。

 

それは私の中にもしっかりと息づいていて、大学では1年休学して「留学する」という名目でアメリカに行きながらすぐに飽きてしまい、その後はアメリカとヨーロッパを1日2,500円(宿泊費込み)で放浪。30歳を過ぎ、時間をコントロールしやすいこの仕事についてからは、安いチケットやマイルを使っては、フラッと海外や地方に出かけていく、という生活を続けている。

 

最近のLCCの台頭は本当にありがたく、札幌に帰る片道よりも安い金額で香港や台湾、韓国や東南アジアに行くことができる。札幌からだってソウルなら2〜3万だ。こんな調子で気がつくと1年のうち2カ月くらいは旅をしている。「いつ仕事してるんですか?」とよく言われるが、この仕事は天職なので、実に一生懸命やっている(笑)。

 

さて何をしにいっているか? 目的は「おいしいごはんを食べるため」である。

 

「へぇ~、北海道出身なんだぁ。いいなぁ。おいしいものたくさんあっていいよねぇ」。というのが、出身地を明かしたときにされる90%くらいの反応なんだけど、本当にそうなのだろうか?という問いをあえて投げかけてみる。「本当に北海道はおいしいのか?」。北海道を愛するが故の逆説的な表現である。

 

もちろん、北海道はおいしいんだけど、北海道を飛び出してみると、日本には、世界には実においしいものがたくさんあるのだ。

 

ソウルで食べたカンジャンケジャン。新鮮なワタリガニを独特の醤油ダレに漬けた料理なんだけど、トロリとした甘い身が最高に旨くて、カニといえば毛ガニが一番旨い!と思っていた私の先入観は完全にぶち壊された。聞けば石狩湾新港でもワタリガニが収穫でき、それを漬けてカンジャンケジャンを出しているお店が札幌にもあるとか。ああ、それ食べたい!

 

ちなみに、初めて東京で博多ラーメンを食べたときの衝撃とよく似ている(笑)。

 

バンコクの地元民で賑わう午前中しかやっていないスープ屋。魚の浮袋、スペアリブ、烏骨鶏など多岐にわたる種類のスープを蒸しあげて作る。その澄んだスープの奥深い味わい。思い出すだけで唾液が込み上げる。その数年後、中国の広州で似たスープを飲み歴史を紐解いてみると、タイ族は12世紀前後に中国・華南からやってきた民族であることが分かり、その相関性を改めて理解。なるほど、だからタイの中華って美味しいのか、という発見もあった。

 

ホーチミンのバインミーも同様。バインミーはフランスパン(本場のと全く違うスカスカのフランス風パン)にレバーパテ、ハム、野菜、なます、青唐辛子を挟んで、ニョクマムで味付けしたサンドイッチだが、これはフランスの植民地であったことを色濃く反映させている。カオラウはザラザラしたコシのない米粉麺だけど、こいつは伊勢うどんがルーツ。朱印船貿易でホイアンにできた日本人街で長をしていた人物が伊勢出身だったらしい。その後、ベトナム風に変化を遂げて今の形がある。

 

パレルモの脾臓バーガーも強烈だった。脾臓をスライスして、豚のラードでじっくりと炒め、塩胡椒で味付けした具をゴマがたっぷりのパンで挟んだシンプルなストリートフードなんだけど、これがまた旨いのなんの。シチリアのレモンをぎゅっと絞ってビールで流し込むとまさにヘブン!

 

パレルモがあるシチリア島は、ギリシャ、アラブ、ローマをはじめ多くの国の支配を受けた島だけど、それ故食文化もバラエティに富んでいて楽しい。トラパニでは北アフリカでよく食べられるクスクスが地元の魚文化と結びついた。マグロのスープをたっぷり吸ったクスクスはもう最強だ。

 

サンセバスチャンのバル街で食べた鰯の酢漬けやエビのフリット、カメノテの塩ゆでも印象深い。サンセバスチャンはわずか人口18万人の街だけど、人口一人当たりのミシュランの星がダントツ世界一の街。ここは料理人たちがその手法を共有してバスク料理を高める取り組みをしたり、「BASQUE CULINARY CENTER」という美食を追求する調理学科がある教育機関を官民でつくったり、おいしいものを産み出す仕組みづくりが上手。

 

と、ここまで書いてハタと気づいた。
衝撃的な「おいしい」が生み出されるためには、「素材」「歴史」「文化」、そして作り手や地域の「情熱」が必要とされるのではないだろうか? この全てがバランスよく融合した時に、初めてそれが生まれる。

 

では北海道はどうだろうか? 北海道のおいしさは今のところ「素材」と「情熱」がメイン。それでもこれだけおいしい。高々150年の歴史の中でこれだけのおいしいものたちが生み出されている。中国は4000年だし、シチリアは3000年だ。私が北海道を離れてから産み出されたスープカレーなんてまだ20年くらいの歴史。従来の北海道ラーメンをオマージュしながら生まれつつある30~40歳台の職人が作るニューウェーブのラーメンも最近のこと。と、考えると「北海道のおいしい」は大いに誇られるべきではないだろうか。

 

北海道を飛び出し、成長して戻ってくる人たち。北海道に憧れ目指してやってくる人たち。ずっと北海道にいながら、世界を取り入れて新しいチャレンジを始めている人たち。

 

多様性を受け入れてきた北海道の深い懐で、「歴史」と「文化」が加わったとき、「衝撃的においしいもの」が生まれるのだろう。そう「北海道のおいしい」はまだ始まったばかりなのだ。

 

私たちには、北海道の食文化を紡ぎ、次の世代にバトンを渡していく大切な役割がある。

 

さあ、この大義を胸に今日もおいしいものと巡り合うために旅に出るのだ。

 

 

 

 

( 絵 / Midori Kambara )

 

 

 

 

 

谷本 考(たにもと こう)

 

食べ人・プルデンシャル生命保険(株)

 

1969年2月 猛吹雪の日札幌で生まれる。2800g。
小6まで北見市。修学旅行前に札幌に転校、転校した学校は修学旅行終了後(苦笑)。以後、引きの悪さは継続中。札幌北高・北大法学部卒。
1992年(株)リクルート入社。20kg増。2000年プルデンシャル生命保険(株)入社。30kg増の後30kg減。
「仕事は全力、遊びはもっと全力」で生きたい。「食べ人」として日本を、世界のおいしいものを探し求め食べ歩いている。1年のうち最低60日は海外で食べていることが目標。最近のお気に入りはシチリア島と台南。夢は「食」をテーマに執筆すること。

 

 


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