誰でも笑顔になれる場所

 

「北海道の森で、ログハウスをセルフビルドして暮らす」という夢を持つひととの結婚を転機に、46歳で長く勤めていた仕事を辞め、愛知から北海道へ移住して来た。

 

大雪山麓に定住先も無事決まり、完成はしていないけれど、ログハウスに引っ越したのが2年半前。やっとどうにか生活が落ち着いたので、働くことにした。

 

偶然見つけたのが、行動展示で話題を集める「旭山動物園」での仕事。「あざらし館」でお客様の案内や清掃などをすることになった。

 

あざらし館は「マリンウェイ」という円柱水槽があり、アザラシが垂直に泳ぐ姿を観察できる。働き出して驚いたのは、マリンウェイを泳ぐアザラシを見た途端、どんなお客様でも笑顔になること。

 

「もう見たから、次行こう」と言うお子さんに、「まだ見たいのにー」と言いながら、残念そうに去って行くお父さんを何度見たことか。
子どもたちの歓声に、にっこりするお客様。なかなか通らないアザラシを待って、マリンウェイを泳ぐ姿を見たときの、お客様同士の一体感。
ああ、なんて幸せな空間なんだろう。そう思いながら、いつも働いていた。

 

ある日、60代くらいの女性がお一人で、長いことアザラシを静かにご覧になっていた。
「こんにちは」と声をかけたら、20年ぶりの来園と話してくださった。
お義母さんの介護を長くされていたけれど、亡くなられたこと。そしてやっと、旅に出られるようになったこと。そんな話をしてくださった。

 

「札幌で泊まり、今朝このまま東京へ帰ろうかと思ったの。でも、ここまで来たんだから、旭山動物園まで行こうと急に思いついて。前来たときは、息子たちも一緒だった。いろんなことを思い出しました」
「そうでしたか。遠くから来てくださったんですね。お話してくださって、ありがとうございます」
「来て良かった。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます。またお待ちしております。引き続き、素敵な旅を」

 

そんな出会いが毎日のようにあった2年間だった。期間満了で退職したが、今振り返ると、あざらし館を通じて、私もずっと笑顔でいられたんだな、と思う。

 

あー、そんなことを思い出していたら、久しぶりに旭山動物園へ行きたくなった。
アザラシたち、元気かな。

 

 


( 絵 / Midori Kambara )

 

 


 

 

森 牧恵(もり まきえ)


元旭山動物園勤務

 

1964年京都市に生まれ育ち、大学進学から愛知へ。学童保育所の児童指導員、医療団体の職員を経て、結婚をきっかけに北海道に移住。現在は東川町のミズナラの森でログハウスの完成を目指しながら、夫と暮らす。
ちなみに、旧姓は林。「北海道の牧場の恵み」から「牧恵」と名付けられたので、北海道へは来るべくして来たと、本人は思っている(笑)。

 

ブログ「くまとたぬきのゆったり徒然ノート」 http://woodcaffee.blog106.fc2.com

 

 


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