札幌は空が広い。そして、高い。それは26年前に東京から転職してきた僕の第一印象でした。見知らぬ青い天井のように感じたその思いは、街中に高層ビルやマンションが立ち並んだ今も変わることはありません。

 

人口196万人、北緯43度。世界で同緯度の都市を見てみると、ドイツ・ミュンヘン130万人、アメリカ・ミルウォーキー60万人、フランス・マルセイユ85万人。高緯度で年間6m近い降雪がありながら、200万人近い人たちが快適に暮らしている札幌は、世界に例を見ない都市性と自然の融合と言ってもいいでしょう。

 

もう一つ、僕が誇らしく思うのは札幌が「演劇の街」でもあるからです。

 

演劇には僕たちを非日常的な空間にいざなってくれる何ともいえない魅力があります。地明かりの灯る薄暗い小屋に足を踏み入れ、席に座ったが最後、終劇の溶暗まで否応なくお付き合いせざるを得ません。しかも全く再現性がないという意味で一期一会の出会いです。こんな芸術も稀だと思いませんか。古代ギリシャ時代からずっと僕たち人間の有様を描き続けてきた劇的世界。懐深く深淵な魔力に満ちています。

 

札幌にはおよそ120もの劇団があるそうです。もちろん、プロとして生活しているのはレアケースで、実際にはいません。でも、普段は一般の社会人として働いていて、公演前になると仕事終わりが稽古時間になり、公演期間は有休でやり繰りする方も少なくありませんし、地元タレントや司会者、ナレーターをしながら芝居を続けていらっしゃる方も多いです。

 

優れた作品をつくり出す劇作家や演出家、そして魅力的な役者たち。裏方の皆さんを含めた演劇人たちの熱量を尊敬しています。今大活躍している大泉洋さん、安田顕さん、そしてTEAM NACSが札幌の演劇シーンから生まれたことは、やはり理由があるのだと思います。

 

演劇を盛り上げ、観客の裾野を広げる努力も並々ならぬものがあります。夏冬と年2回の「札幌演劇シーズン」、「TGR札幌劇場祭」、「遊戯祭」、「教文短編演劇祭」などなど。トリエンナーレとなった今年2回目の札幌国際芸術祭では、特別プログラムとして東京でも滅多に観ることができない藤田貴大さんの「マームとジプシー」や、羊屋白玉さんの「指輪ホテル」が来てくれました。

 

来年10月7日には2,300席を誇る「札幌文化芸術劇場hitaru」が街のど真ん中に誕生します。こけら落としは、若きマエストロ、アンドレア・バッティストーニ指揮でヴェルディの傑作オペラ「アイーダ」がお目見えします。新劇場の誕生を機に日本では珍しいシアターカウンシルも立ち上がりました。「ちょっと今夜、お芝居観ない?」そんな会話が日常になるまちづくりはこれから本格的に進むことでしょう。

 

辛党として残念なことといえば、アフターシアターが乏しいことです。観劇の興奮冷めやらぬまま誰かと感想を語り合う適当な場所が意外と近場にありません。札幌コンサートホール「Kitara」でさえホワイエは貧弱です。これは何とかして欲しいですね。地元のワイン、そして冷えたビール、いいですね。

 

 *画像は2016年のさっぽろ雪まつり時に、「札幌座」が公演したウィリアム・シェイクスピア原作の「さっぽろ冬物語」より

 

 

 

( 絵 / Midori Kambara )

 

 

 

四宮康雅(しのみや やすまさ)

 

HTB北海道テレビ 元ドラマプロデューサー

 

大阪市出身。週末に走るハルキスト。1999年からスペシャルドラマのプロデューサーを9年間担当。文化庁芸術祭賞、日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など国内外での受賞歴も多く、ファイナリスト入選作品もある米国際エミー賞ではアカデミーから招聘されドラマ部門の審査員を3度務めた。劇作家・演出家の鄭義信作品と故蜷川幸雄演出のシェークスピア劇を敬愛するイタリアンワインラヴァ―。イタリア語の個人レッスンは丸3年に。札幌演劇シーズン2015-夏-からゲキカン!担当、TGR札幌劇場祭2016から大賞審査員を務める。一般社団法人 放送人の会会員。著書に「昭和最後の日 テレビ報道は何を伝えたか」(新潮文庫刊)。

 

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