さやえんどうの筋をスルスルと剥がし、慣れた手つきでぷっくりとした豆を取り出すと、ザルの上にそっと乗せる。さやえんどうの筋は、美しくひとまとめにされ、捨ててしまうのは勿体無い気さえした。これは祖父と過ごした夏休みの大切な思い出だ。

 

私は、室蘭市で生まれた。住んだ事がないので、「出身地です」と言うのはなんだか気が引けてしまい、「エゾっ子です」と答えることにしている。父の仕事の都合で各地を転々とし、友達を作った。

 

「大きなお風呂ねぇ」。2、3歳の子どもにそんなことを言われ、洞爺湖もさぞびっくりしたと思う。私の幼少期の記憶はここから始まる。家から見える湖はいくつもの顔を持ち、藍のグラデーションは、窓の下一面に咲いている紫陽花の様に変化する。雨が降っていても晴れていても、紫陽花も湖もとにかく美しかった。

 

家の裏には当時、仲洞爺小学校があった。校長先生は未就学の小さな私をいつも笑顔で迎えてくれ、音楽の授業を受けることを特別に許可してくれた。今思えば、このことが音楽の道へ進むキッカケになったのかもしれない。紅葉の季節には、三輪車に乗ってお気に入りの落ち葉を校長先生宅のポストへ入れた。お礼の気持ちを落ち葉に託した、3歳児の仁義である。

 

まるでターシャ・テューダー*の様だった曽祖母は、生活の知恵に溢れ、自然に愛されていた。家中のあちこちにザルを置き、大地の恵みを丁寧に並べていた。私は、そういう行為に憧れていた。いろんな瓶の中にある保存食にワクワクし、乾燥豆の愛らしさにほっこりした。怪我をすれば、謎の草をすりつぶして患部に当ててみたりもした。

 

6歳から始めたピアノは、私の想像力をかきたてた。音楽が絵のように見えて聴こえる。頭の中で絵画のように広がるのだ。自然に囲まれて暮らしたせいだろうか、私の中の映像は無限だ。それを自分の音楽として器用に表現できるのであれば、豊かなものが仕上がるのかもしれない。これがまた難しいものだから、楽しくてやめられない。

 

高校時代、庭のある古民家に絵本とピアノを置いたカフェをやろうと決めた。五線譜に店の図案などワクワクしながら書いたものだ。回り道も道草も猛ダッシュもしながら、種まきを終えた頃、古い煉瓦の質蔵と出会った。「Lákura分室」としてセレクトショップとカフェをオープンさせ、私は大興奮だった。点が全て線となって音を立てて繋がったのだ。

 

しかし、夢も箱も手に入れたのに、目の回るような忙しい日常に、今度は疑問を持ち始めた。もがいたり、あわてたり、寝そべったり、笑ったりして、そこから7年経ったいま、「丁寧に!丁寧に!」と呪文の様に自分に言い聞かせている。

 

結局、辿り着いたのは、幼少期に身の回りにいた、しなやかでユーモアを持ち、丁寧に暮らす大人たち。そうか。子供の時からの夢は案外、“何になりたい”ではなく、“丁寧に暮らしたい”という事だったのかと気づき、はっとする。

 

いろんなものに一つ一つ向き合って行き、次の瞬間の私、次の日の私に、思いやりが持てるかどうか、そこに目的は絞られて行った。さやえんどうの筋の取り方も、その筋の処理も、洗濯物の干し方も、何もかも足踏みしていた頃と変わった。保存食を作り、ザルに野菜達を並べる生活を始めると、ピアノの音色も変わった。

 

北海道の大地で慎ましく、そして豊かに暮らす先人達の知恵に、知らず知らず教えられていたのだ。

その人の表現力は、その人の生き様で、その人の心を表す。

丁寧暮らしを夢見るエゾっ子の心意気は、ピアノとザルに乗せて北の大地へ。

 

 

*アメリカの絵本画家・挿絵画家・園芸家・人形作家

 

 

 

( 絵 / Midori Kambara )

 

 

 

 

 

 

鳥居 はゆき (とりい はゆき)

 

selectshop music cafe 「Lákura分室」店主

 

生まれ育ちは北海道。made in Sapporoの暮らしに寄り添う服「Água de Beber」の企画デザイン、フリースタイリストとしてアパレル業界で活動。1919年に建てられた質蔵をリノベーションし、人と人が繋がる予約制のカフェ&セレクトショップ「Lákura分室」を経営。新鮮な北海道の恵み、そして笑いと音楽と出会いをテーブルに届ける迷のピアノ弾き。本業は福屋。

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