物語が見える街

 

高校時代、毎朝乗っていたのは小樽行きの電車。1時限目から嫌いな数学がある土曜日や、教室でじっとしているには惜しい晴天の日は、高校のある札幌駅で降りずにそのまま終点の小樽まで行った。そのころの小樽には、運河沿いの散策路も堺町通りのにぎわいもまだなかったけれど、街の中をぶらぶら歩いたり、埠頭で海を眺めたりするだけで楽しかった。実家の2階の窓から地平線まで牛とサイロと牧草しか見えないようなところに住んでいた私にとって、坂や港、古い石造りの建物がある街はなんだか外国のようで憧れだったのだ。大学を卒業して働き始めてからも、嫌なことが重なると打ち合わせや資料探しに出るふりをして、小樽へ現実逃避の小さな旅に出たりした。

 

その後、歌詞を書く仕事を始めて東京に拠点を移した。東京生活は楽しかったけれど、北国育ちの体は暑さと湿気に耐えられず、15年ぶりに北海道にUターン。そして、友人から声をかけられて仲間に入ったのが、小樽の魅力を伝えるショートフィルム制作の『美女*小樽』プロジェクトだ。映像制作に興味のあるメンバーで、小樽を舞台にしたストーリーを感じさせる2分間の映像を撮りためている。いずれは小樽の観光振興に役立てようという、誰に頼まれたわけでもなく始まった大人の部活動だ。私の役目は、監督が思いついたテーマやスポットにストーリーの肉付けをすることなのだが、思わぬ制約があった。それは、海外の人が見てもストーリーがわかるように、「セリフや文字を一切使わない」というルール。ここにセリフがあればオチがわかりやすくなるのに!と悩みながら映像のプロットを組み立てていくことは、言葉で伝えることを生業にしてきた私にとってはもどかしくて、だけど初めてのゲームのようで面白くもあった。

 

 

最近は、ショートフィルムのネタを探しに、時間が空くと小樽の街を歩いている。小樽駅から運河までの道はきれいに整備され、堺町通りには観光客向けのショップが増えた。学校をさぼって来ていたころの小樽とは違う街のようだ。多くの人でにぎわっている通りだけでなく、繁華街からはずれた裏道や住宅地、ひっそりとしている昼間の歓楽街を、ここで暮らしている人のような顔をして歩く。感じるのは、観光スポットではない日常的な風景のなかにも、人に伝えたくなるような魅力があるということ。言葉で説明しなくても、そこにいるだけで物語が立ち上がってくる場所やものがたくさんある。これまでにショートフィルムのテーマにしてきたのも、階段、丸型ポスト、無人駅、文学館、港など、どれも観光パンフレットには載らないモノや場所だ。歩くとわかる。小樽のチャームポイントはまだまだある。それを探すことを楽しみながら、言葉を使わずに伝えていけたらいいなと思う。

 

*『美女*小樽』のオムニバス作品は2016年の小樽ショートフィルムセッションで審査員特別賞を受賞(画像提供/Studio ONION)

 

 

(絵 / Midori Kambara )

 

 

 

田形 美喜子(たがた みきこ)

 

作詞家

 

札幌市出身。1995年より作詞家としての活動を開始。タッキー&翼、V6、ももいろクローバー、石野真子、工藤静香、バニラビーンズなどに歌詞を提供。14年間の東京生活の後、2010年に札幌にUターン。ミラクル・バス所属。

http://miraclebus.com/

 

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