今から45年ほど前、まだ小学生だった頃、夏休みに母方の祖父母が住んでいた空知の深川によく遊びに行っていた。親戚一同が集まり、タレに漬け込んだマトンのジンギスカンをよく食べた。祖父は「今日の肉は格別にうまい!」などと言って食べていたと思う。当時ジンギスカンはみんなのご馳走だった。

 

札幌で小さなフレンチレストランを開業して23年目になる。自分自身の羊好きが高じてか、先人たちが北海道に羊を食べる文化を築いてくれたお陰か、いつの間にか羊が名物のレストランになっていた。

 

こんな、ちょっと変わったレストランに羊を提供してくれるのは、日本でも有数の広い面積の町・足寄(あしょろ)町で羊の牧場を営んでいる石田さんだ。石田さんは自称 “羊飼いの嫁”こと、妻の美希さんと二人三脚で牧場を経営して、今年で開業16年目になる。

 

付き合いは牧場の開業当時からで、いい意味で羊オタク、羊愛に溢れたご夫婦は、色々な月齢の羊を僕の店に届けてくれる。春先に生まれ、生後30~60日程度の“乳飲みの仔羊”は、繊細でピュアーな色と香りと味わい。修行先のフランス・ボルドーの、今は幻となったポイヤックの羊を連想させる。それとは正反対にしっかりとした赤身の色で、香りと味わいが深く成熟したマトンは、一度味わったお客さんを虜にするほどだ。月齢や年月で季節や味の違いが感じられるのは、羊ならではの魅力だ。

 

石田さんの牧場で飼われている羊は、ほとんどが「サウスダウン種」というイギリス原産の羊だ。ずんぐりむっくりのコロンとした体形で愛くるしい顔だが、これがまたやっかいな品種で、足が短く、仔羊は母羊の下に潜り込んで乳を吸うのが大変。他の品種と比べ、子をたくさん産まない。さらに本能的に子育てが下手。まさに羊飼い泣かせで、牧場の経営を圧迫していると思われる。しかしご夫妻がこの品種にこだわり、僕がこのサウスダウンを使い続ける理由は単純明快。数ある肉用種の中で“羊肉の王様”といわれ、抜群に美味しいから。

 

石田さんは2013年に地元、足寄に直営レストランの「ヒツジ堂」をオープン。足寄町や近郊の方々は羊をはじめとする十勝の食材を使った料理を存分に楽しんでいるようだ。僕もキッチンスタッフと一緒にヒツジ堂に呼んでもらい、足寄町民の方に足寄の食材で料理を作ったりしている。

また、長年築いてきた関係を「羊飼いと料理人」というテーマで、1年半に一度、函館で開催される「世界料理学会」に2人で出向いて羊の発表もした。普段は札幌の店でどっぷり羊につかり、羊にまみれて仕事をしているが、石田さんと知り合えたお陰で道東の足寄、道南の函館と、羊を軸に広い北海道を横断して、北海道の色々な街の魅力を体感させてもらっている。

 

僕は北海道生まれ。石田さんは山口県出身。美希さんは滋賀県出身(2人は帯広畜産大学で出会ったそうだ)。皆、生まれた場所は違えど、羊でつながる関係は北海道らしくて、なんかとてもいいなあと思う。

 

 

( 絵 / Midori Kambara )

 

 

 

髙橋 毅(たかはし たけし)

 

フレンチレストラン ラ・サンテ オーナーシェフ

 

札幌市出身。大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、大阪、札幌、静岡のホテルやレストランを経て、渡仏。ボルドー地方を中心にフランスの伝統料理を学ぶ。帰国後、1994年にフレンチレストラン「ラ・サンテ」を札幌で開業。北海道の食材に特化した健康的なフレンチを提供。2015年には同じエリアの小さな一軒家に移転。札幌軟石の薪の炉を導入し、一番シンプルで原始的な薪の加熱法に日々取り組んでいる。

北海道新聞「朝の食卓」に定期的に食のコラムを執筆。趣味は、時間が空いた休日にすべて忘れて取り組む陶芸。店でサービスを担当する妻と愛猫2匹と暮らす。

http://la-sante.jp/

 

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