*このエッセイは2017年6月にご寄稿いただいたものです 

 

「エゾシカの誕生日って6月1日なんですよ」。以前、ハンターで、野生動物の研究者でもある先生に教えてもらったっけ。冬の繁殖期を経て、エゾシカの子が誕生するのがだいたい6月。1日としているのは、論文などの都合だろうか(ちゃんと説明を受けたはずだが記憶が曖昧)。

 

春から初夏は、シカ以外にも多くの動物の子が生まれて育つ季節。北海道の方言では赤ちゃんのことを「コッコ」と呼ぶ。「まだコッコだ。めんこいねぇ」「このシシャモ、コッコいっぱい詰まってるわ」といった用例。語感がかわいいでしょ。

 

仕事柄、北海道の野生動物に関わる人々を訪ねている。自称インドア派だが、「イキモノの話を聞くのが好き」というやっかいな性分のせいで、夜間の森の声をひたすら聞いたり、極寒の船の上で鼻水もかまわず鯨類や鳥類の登場を待つこともある。そんなイキモノ旅の中でも顔がほころんじゃうのが、コッコとの遭遇だ。

 

初めてエゾフクロウのコッコを見たのは6月の森。林道を散歩していると、カメラマンが長いレンズを木々に向けている。ひそひそ声で話しかけると、「フクロウの親子がいますよ」と、快くファインダーをのぞかせてくれた。まず見えたのは巣立ちビナ。フクロウは、ふ化からひと月ほどした6月上旬~中旬に巣立ちするという。とはいえ、しばらくは親が近くの木で見守り、給餌もする。

 

ヒナは羽毛がまだポヤポヤ。キョロキョロと落ち着きがないから見つけやすい。かたや親鳥は微動だにしないので、なかなか見つからない。幹に擬態しているようだ。ヒナは飛ぶのも下手で、時に木から落ちる。そこを人間が拾ってしまうことがあるのだが、この親切心は誘拐になってしまう。ヒナは自分で木に登れるし、親がどこかで見守っている。運悪くキタキツネに捕まったとしても、それはキツネのコッコのごはんになる。と思っても、なるべく無事に育ってもらいたい。森デビューしたばかりのフクロウに、「がんばって」とファインダー越しにエールを送った。

 

シカやヒツジの母はコワかった。ある年の初夏に道東ドライブに出かけた。東に行くほどシカが次々と出没し、母の側には小さな“鹿の子模様”が見え隠れ。「バンビがいるね」と観察しようとしたら、母ちゃんが睨んでいるではないか。表情のない彼らだけど、これは睨んでる。舌打ちされたかも(な、気分)。さらに前脚を地面に打ち付けて「うちの子になにすんのよっ!!」と威嚇!威嚇!慌てて退散の巻。

 

またある年の6月。「コッコ生まれた頃だから見に行こう」と、釧路の友人に誘われて綿羊牧場へ。たくさんの親子がいて、メエメエと賑やか。ああカワイイ子ヒツジ。柵越しに夢中になってシャッターを切っていると、ダンッ!ダンッ!と前脚のヒヅメを打ち付ける音が……。完全に母ヒツジたちが怒ってる。ごめんごめんと、こちらも退散(おいしいラム肉は購入したけれど)。母は強し、コワし。

 

エゾシカの誕生日が来ると、賑やかな森や牧場を思い出す。今年も元気に育っているかな。会いたいな。でも親の気持ちを考えると、近づかないのがコッコたちのためなのよね。

 

 

(絵 / Midori Kambara )

 

 

新岡 薫(にいおか かおり)

エトブン社・イラストレーター

 

札幌市出身。北海道の野生動物について絵と文を描いて書くことをライフワークとし、専門家を訪ねては「イキモノート」をしたためる日々。大日本猟友会サイトで連載した「目指せ!狩りガール」をきっかけにコミックエッセイ「狩りガールが旅するおいしいのはじまり(講談社)」を描く。ちなみに本人は狩猟者ではなく食べる専門。車内誌THE JR Hokkaidoにてイラストコラム「ほっかいどうイキモノート」を連載中。

https://etobunshainyezo.blogspot.jp/

 

 

 

Share on Facebook
Share on Twitter
Please reload

EZOBITO TM 2017 All Rights Reserved. 

This website is supported by HOKKAIDO-OMIYAGE-TANKENTAI

http://www.rakuten.co.jp/hokkaido-omiyage/

​サイト内のすべてのイラストおよび文章の無断転用を禁止ず