北海道とオートバイとドロップアウト

 

 東京から北海道に移住して四半世紀になる。

 

きっかけはサラリーマン時代の転勤だが、実は、当初から『この地』に骨を埋める気満々で、着任早々に住居を買い、道産子と結婚して子供も授かった。その後、幾度となく訪れる異動の危機をなんとかやり過ごし、果ては会社を辞め、独立起業して今に至る。よそ者が、すっかり北海道に居ついてしまった例のひとつだ。

 

そこまでして、とにかく、『この地』に住みたかったのである。

理由はいくつかあるが、それらの根源的動機は、ドロップアウトとオートバイによってもたらされたといえる。

 

高2の夏、不登校になり、そのまま学校を中退した。

原因は、今思えば、思春期ゆえの精神の不安定というか、社会や大人たちに対する不信感というか、受験一辺倒な教育のあり方に対する無意味な抗いというか…。

そんな、説明しようのない「もやもやとしたもの」に目を背けるように家を出て、なに不自由のない生活から逃げ出してしまったのだ。

 

そして、当時、空前のブームの渦中にあった、オートバイを手に入れた。

 

あるとき、落ちこぼれの掃き溜めのような職場でバイク雑誌のページをめくっていて、『北海道ツーリング特集』のグラビアに目が釘付けになった。

 

「こんな開放的なところを走ってみたい…」。

 

思いつきもそのままに、なけなしの貯金をはたいて、北海道ソロツーリングを即断。一週間の行程で、ぐるりと全道を回るという、いま思えばかなり無茶なプランだ。

そして、フェリーで苫小牧港に到着し、市街地をはずれてカントリーロードをひた走る頃には、もはや、どっぷりと『この地』の魅力に取り憑かれてしまっていた。ヤラれた。

 

空知国道の延々と続くまっすぐなアスファルトの道に度肝を抜かれ、宗谷岬を回ったとたんに吹き付けるオホーツクの冷たい海風に身を縮め、知床峠から眺望する大自然の迫力に感動し、釧路湿原の深い霧に圧倒されたりした。

 

たくさんのツアラーとの触れ合いも経験した。当時、まだライダーハウスなんてものはなくて、ねぐらは各地のユースホステルを利用したのだが、そこでは、ライダーはもちろん、自転車ツアラー、バス団体旅行の若い男女たちでごった返していて、なんともいえない熱気のようなものを発散していた。ものすごく楽しかった。

たぶん、バブル時代で景気がよかったのだろう。

 

これだけ運命的に好印象な北海道であったにも関わらず、その後、訪れる機会は皆無だった。実は、単純に先立つものがなかっただけで、いつの間にかオートバイも手放してしまった。

それでも、いつも気持ちのどこかに、『北海道』が引っかかっていた気がする。

 

紆余曲折のドロップアウト生活から這い上がり、25歳にもなろうかという頃、働きながら夜間の美術系専門学校を卒業した。そして、タコ部屋のようなデザイン事務所勤務を経て、奇跡的に、大手情報出版会社に転職することができた。

働き始めてから知るのもどうかと思うが、なんとその会社の事業は全国区で、札幌市にも支社があったのだ。

 

心の片隅で長年くすぶっていた北海道への想いが、このとき一気に再燃した。

 

実は、オートバイはいまでも所有している。40歳で独立起業したのを記念して、あらためて手に入れた。中年返り咲きライダーだ。もっともなかなか乗る機会がなく、年に数回しかエンジンに火が入らない。

それでも、走っているときは爽快だ。もう、ロングツーリングにでかける気力はないけれど、天気のよい早朝の野山をひた走っていると、10代の頃、鮮烈に響いたあの感動がいつも胸に去来する。

 

そしてそのたび、『この地』で暮らせる幸せに、密かに感謝したりするのだ。

 

 

 

(イラスト /  Midori Kambara)

 

 

 

 

 

藤田達也(ふじたたつや)

 

1964年生まれ、札幌市在住

EZOBITO 編集長

t-desk inc. 代表 ワインバー Au Grenier オーナーソムリエ

 

東京都出身。小学校時代、父親の仕事によりブリュッセルで過ごす。東京都立三田高等学校中退。1988年、株式会社リクルートに中途入社。札幌に転勤後2004年に退社し、広告制作会社t-desk inc. を設立。2011年、ワインバーAu Grenier(オ・グルニエ)開業。趣味はキャンプ、カヤック、オートバイ、ワイン、料理、テニスなど多数。一女の父。

 

 

 

 

 

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