

野崎 創(のざき はじめ)
株式会社エーデルワイスファーム 代表取締役社長
1969年生まれ
恵庭市出身 北広島市在住
中学生で初渡米、高校時代に交換留学生としてアメリカに滞在。
1994年、日本初のネット通販の取り組みを行う。
2004年から六次産業化や食と農と観光に関する調査をはじめる。
ほぼ毎年、国内だけではなくイタリアやスペインなどでアグリツーリズモを体験。
「大人の食育」をテーマに掲げ、自らもアグリツーリズモの普及に向けて活動中。
私たちエーデルワイスファームは、北海道で日本人が作りはじめたハムベーコンとしては最も歴史が古く、80年以上も前に、私の祖父がハムソーセージの教本(北海道庁が翻訳発行)をもとに作り始めたのが最初です。

今では本場ドイツでも行わなくなった古い製法(自然熟成&薪炭火仕上げ)をもとに、50年ほど前に父が更にそれに改良を加え、独自の氷温熟成と、仕上げの薫りづけにナラなどのオーク材による薪を用いた燻煙を行い作り続けております。
もともとは自家用品だったもの。毎年冬場のごちそうとして、父が12月頃になると飼育していた豚を塩やスパイスで仕込み、一か月ほど地下室で熟成したものを燻製小屋に吊るして、長時間をかけ燻製を行い、クリスマスからお正月にかけて、ハムやベーコン、ソーセージやサラミなど多くを楽しみました 。
そんな長年作り楽しんできたハムやベーコンが1985年に一流シェフの目に留まり、彼らの要請によって製品化されるのですが、既製品の4倍以上の手間と時間をかけて、同量の原料から市販品の半分から1/3程度しか出来ないものだから、どうしても価格も高くなってしまいます。
案の定、ホテルシェフの高い評価とは裏腹に、地元では全く売れなかったのでした(当時はまだ質よりも量の時代だった)。
北海道で一年ほど頑張ったけれど売れず、父は「路頭に迷う前に店仕舞いしようか」と思っていた矢先、東京で一番といわれていた百貨店から贈答シーズン中に、一度試食販売してみないかと声がかかりました。
「これで売れなければ最後」と覚悟をもって挑んだそうですが、いきなりその百貨店の産直ギフトの売り上げベスト5に。のちに1位となり、テナント出店もすることになったのでした。
さて、そんな父の背中を見てきた私ですが、当時は牧場の後継ぎよりも外交官になりたいと国際基督教大学を志望。残念ながら、浪人生となって、東京で予備校通いを始めることに。 浪人生活 3ヶ月を過ぎた夏、東京の百貨店の催事の手伝いを父に頼まれたことが人生を大きく変える起点になるとは。
父は「東京で催事をすると、大変な人気なんだぞ」というのですが、私は冷ややかに思っていたのです。「なんの歴史も実績もない、北海道の田舎で作っている自分が小さな頃から楽しんできたハムやベーコンが売れるはずが無い」と。
実は成人になるまで、ノザキのコンビーフの野崎産業の創業者一家の血筋や、ニシンの網元だった青山家の血筋だったことなど、先祖の話は全く教えられていなかったので(苦笑)。

さて、デパートに手伝いに行くことを決めた当日。「きっと暇だから、せめてお客様に振り返ってもらえるよう大きな声を張り上げ頑張ろう」と開店前は思っていました。
ところが、開店して10分もしないうちにお客様がいらっしゃったのです。「前回、買わせていただいたのだけれど、とても美味しかったわ」と、父と話しているのです。
「いやいや、たまたまでしょう」と思っていたのですが、その後も次から次へとお客様がお越しくださり、休憩時間が取れないほど。
「おたくのハムベーコンをギフトにお贈りした先様からとても感謝をされたわ。ありがとう」という言葉を本当に多くのお客様から頂いているうちに、嫌々手伝いに行っていた気持ちが失せ、心から嬉しく満たされた気持ちで一杯になりました。
「お客様に喜んでもらうだけではなく、感謝までして頂けるような仕事に携われるなんて、 とても幸せな事ではないだろうか」と。 なによりも父が楽しそうにお客様と接客している姿をみて、生まれてはじめて、この仕事を誇らしく興味を持ったのが始まりだったのです。
◆2014 年にイタリアへ
近年、「食育」という言葉が独り歩きしています。多くの方々は「子供」のために行うものだと思われていますが、本来、「食べる」という行為は老若男女、すべての人に必要なものです。
同様に、「グリーンツーリズム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
この言葉は、本来、イタリアのアグリツーリズモが由来とされているのですが、どこでどう湾曲したのか、日本では食育と同じように、子どもたちのために、芋掘りや乳搾りなどの農業体験をするものだと思われています。
では、本場イタリアのアグリツーリズモはどうなのでしょうか? ということで、実際に訪れてきた経験から申し上げると、「大人のための食育」でありました。
チーズ工房へ行くと、工場見学に申し込むと白衣に着替えさせられて、実際にモッツァレラチーズづくりの現場に。出来たてのチーズを試食させて頂きながら、作り方や歴史を学びます。
ワイナリーツアーに行くと、畑に行って、たわわに実ったワイン用のぶどうの実を摘んで食べたり(時期による)、歴史を聞きながら醸造中のワインを試飲させてもらったり、最後に出来上がったワインの試飲を、地域の名産とともに楽しませてくれたりと。
乗馬をしても、その地域で起きている話や歴史を面白おかしく話しかけてくれるトレーナーのもとで、約1時間半程度ゆっくりと時間を過ごすことが出来るのです。
他にも、トリュフ狩りをしたり、時間がある時はプールサイドでゆっくりと仲間たちと語り合う、なんて言うちょっと大人な時間を過ごすものでした。

工場見学にしてもワイナリーツアーにしても、いずれもお金を払って見学させてもらうのが当たり前で、彼らの大事な愛着のある製品を試食や試飲をさせてもらうものなんです。
そうこうしているうちに作り手のファンになって、そこでできたチーズやワイン、その他農産品を思わず買って帰りたくなってしまうんです。
マンマの手料理のごとく、とても美味しくて思わず笑顔になるような逸品がそこにはあるんですよね。
そんなアグリツーリズモを子供たちは親とともに体験して過ごすんです。大人たちが心から楽しげにしている背中を見て、また子供たちも興味を持つのがはっきりと感じ取れるのです。
日本でも最たる例がアウトドアではないでしょうか?
大人たちがバーベキューをしたり、テントを張ってキャンプファイヤーなどを囲いながら楽しげにしている時間をまた子供たちが見て興味を持ちはじめる。
だからこそ大人が何よりも楽しくしていると、子どもたちも興味を持つと考えると、食育も仕事もそうあるべきだと最近はふと思うのです。
◆国際味覚賞(International Taste institute)にて、二つ星を獲得
先日、食品のミシュランと呼ばれる国際コンテスト(International Taste Institute 2019)に、弊社自慢のベーコンを初エントリーしました。こちらのコンクールは世界的な一流シェフやソムリエ、総勢200名にも及ぶ方々がブラインドテイストによって審査します。
お陰様でこの度、二つ星をいただくことになりましたが、更に特筆すべきは、5つの審査内容(第一印象・外観・匂い・味・後味)の中で、「匂い」「味」「後味」が三ツ星同等の高評価だったことはとても嬉しく思っております。
何よりも、祖父や父が毎年冬の時期になると作り続けてきた味が世界に通じるものだったのだと思うと、感慨深いものがあります。
エーデルワイスの花の意味は「高貴な白」。これに甘んじることなく、更なる美味しいものを皆様にお届け出来るよう精進して参ります。 本当に皆様、ありがとうございました。
最後に。
父から子へ。またその次へと受け渡していけるよう、私自身、仕事も食育にも、もっともっと夢中になろうと思っています。その姿をスタッフはもちろん、多くの皆様にもご覧いただき、一緒に楽しんでもらえたらと願っています。
( 絵 / Midori Kambara )