北海道を移動する~時間と距離と酒と肴と~



ムライヒロコ (むらい ひろこ)

すすきの界隈人

札幌市生まれ。 大好きな北海道には、まだまだおもしろい味が溢れている。行きたい場所がたくさんある。今でこそ、そのマチをなぞることは Google ストリートビューでもできるけれど、その場に足を運び経験することは、自分の宝になる。車の免許もなければツテもないが、機を逃すこともしたくない。公共の交通機関と自分の足を頼りに、土地の物を肴に美味しいお酒を飲むために、日々邁進していこうと思う。



6月のある日、ホームタウンすすきの、23 時。深夜バス「ニュースター号」で一路、釧路へ。 向かうは、釧路の隣町に新設された「厚岸蒸溜所」。 公私ともに“お酒周り”で活動をしている毎日の中で、注目していた場所で研修出来る機会に恵まれ、高まる気持ちいっぱいでバスに飛び乗った。 初めての深夜バスでの移動。 環境を心配していたが、Wi-Fi もコンセントもある。3列シートも快適で、なんの問題もないのが嬉しい。 お供はスキットル型の瓶に入ったバーボンと燻製チーズ。iPad にイヤホンをつけ、WEB 上の音楽サービスや日頃聞き慣れている FM にチャンネルをあわせ、くつろぐ時間。快適、快適。 何処でもいつでも寝る事ができる図太さがあってよかった。 5時間半程バスに揺られ、目が覚めると窓の外は朝靄の中に差す朝日。 ミネラルウォーターを一杯飲んで滑り出し快調!長い一日が始まる。 釧路では、降車地の近くにあるホテルで早朝天然温泉をいただく。ほとんど貸し切り状態の露天風呂を楽しんで、JR 花咲線に乗車。 駅弁の「鯖といわしのほっかぶりずし」と、国鉄時代からある懐かしい容器に入った熱々のお茶で朝ごはんを楽しんでいると、とてもいい磯の香りを鼻がキャッチした。 まもなく最終到着地の厚岸。町の香りだ。 そうか、この香りが美味しいウイスキーをつくってくれるんだな、と直感した。 駅前からは営業車に乗り込む。パートの主婦ドライバーが目的地まで運んでくれる。道のりはおのずとお喋りタイムになってしまうが、町の情報を得られる貴重な時間だ。

到着後は事前ガイダンスがあり、蒸溜棟内部を見せていただく。 頬をすり寄せたくなるくらい美しい銅色のポットスチル(蒸溜器)が2基鎮座している。 熟成庫は温度調整など不要で、厚岸の風の中でウイスキーは育つ。抽出されたばかりの“ニューメイク”と呼ばれる原酒をのませていただいた。 今日の日付のノンピートを、この土地の空気と一緒に口に含む。モルトの甘み、かすかに感じる塩味は豊かなミネラルを含んだ海霧によるものだろうか。 貴重な体験をさせていただき、ここまで足を運んで良かったと感慨もひとしお。 そして、帰路につく前に、厚岸漁業協同組合の直売店で牡蠣と道東の地酒「北の勝」で小腹を満たすことも忘れてはならない。 1人で食べるには充分な大きさの花咲ガニがワンコイン以下で並んでいたので、それも調達。 建物の奥には電子レンジやキッチンばさみが用意されていて、ご自由にお使いくださいとのこと。現地で調達したものを豪快に、シンプルな食べ方でいただく! これぞ、旅の醍醐味だ。

お腹も心も満たされ、JR の時間まで浜を散歩してみると、昆布漁の時期なようで、丁寧に並べられた昆布干しの風景に、またこの町の良さを思う。 再び花咲線に揺られ、釧路で軽く鮨をつまみ、夕刻、札幌行きの長距離バスに乗り込み、 すすきの着は23 時。 交差点の看板、ニッカの髭おじさんの顔を見て、ホームタウンに帰ってきた安堵感を覚える。

往復24時間。濃い一日だった。

( 絵 / Midori Kambara )

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