香のかほりが



松橋直美(まつはし なおみ)


山登運輸(株)取締役


札幌市在住。

1968年山形県上山市生まれ。


かみのやま温泉はご存知でしょうか。

斎藤茂吉の故郷、実家より望む蔵王山を眺めて通っていた幼少期。

札幌に憧れて仙台より移住し、知る人ぞ知る故・杉山氏、香月氏に花柳界とススキノのいろはを知るきっかけとなりました。

そして、遠からず近からず不思議なご縁で薄野生まれススキノ育ちの主人とめぐり逢い、歳の差婚。

主人の趣味の祭りごと(北海睦・副会長)のお祭りを支える賛助会に現在携わっております。





料亭の打ち水をされた玄関に一歩足を踏み入れば、その瞬間に香のかおりに包まれます。

三つ指をついた大女将が「ようこそ、お出で下さいました」「お靴をそのままにしてどうぞお上がり下さい」と、靴をそのままにして上がります。

殿方は襟を正しながら「女将は相変わらず元気そうだねえ」と、何気ない会話をし、緊張感と何とも心地良い香ほりに包まれながら、お座敷へと仲居さんに通されます。


今日はどの芸者さんが来ているのだろうかと、心わくわくし、お座敷の窓の外の風情を眺めたり、どこかそわそわし、お客全員が揃うのを待ちながら何とも言えぬ空間の美もまた心地良くたまりません。

束の間の待ち時間が過ぎたれば、襖が開き女将のご挨拶と共に「宴」の始まり、はじまりです。


料亭にはこぢんまりとした個室や、大広間のお座敷があります。

座椅子の上には上等なふかふかのお座布団、そこに座り、お客同士の堅い話と日本料理を戴きながら、芸者さんはそっとお客の盃にお酌をしてくれます。


「今日のお酒は何処だい?」などと、 話が徐々に盛り上がり和むようになってから頃合いをみて、地方(じかた)さんの三味線の音合わせが整うと襖が開き、お辞儀をした芸者さんの手の先の扇子を取れば、芸者さんの踊りの「舞」が始まります。


畳三畳あれば踊れるという美しい舞に、誰もが息を吞み、音のみの静けさの中に優美さに引き込まれることでしょう。





そうそう、札幌の芸者さんをご紹介しますね。

札幌にも三年前に芸妓(げいぎ)さんが増えました。

先ずは若手から。 名前は『小梅ちゃん』、『こと代ちゃん』、『千恵ちゃん』。その三名が札幌の名妓連(めいぎれん)の第一期生です。


立方(たちかた)には女形と男形があるのですが、昨年から『こと代ちゃん』は男形をメインとなり女形のどちらも踊れるようになりました。また『千恵ちゃん』は、地方さんに成長しています。 彼女の声の透る素晴らしい唄とお三味線を、是非聞いて欲しいものです。


そして、あれから三年、時の流れは早いものですね。

令和元年の一月に二十歳を迎えた半玉(はんぎょく)の小梅ちゃんは襟替え (えりかえ=半玉や舞妓が一人前の芸妓になる際の儀式)を済ませ、振袖を着た半玉から附下(つけさげ)を着るようになり、芸者となりました。

そして、また令和二年、第二期生の半玉さんが生まれようとしています。


次に芸者さんのお姐さん方をご紹介致しますね。

『ゆき乃さん』『小政さん』『小福さん』『かつ恵さん』『三子さん』『まさ美さん』、『清恵さん』そして、女将の『はな恵さん』と、大女将の『澤田啓子さん、(通称・おかあさん)』の 十二名で、現在、札幌の花柳界を支えております。



昔々大昔、薄野にも華やかな時代がありました。

パークホテルの周りや南7条と薄野界隈の中にはお座敷を持つ料亭は40軒以上、芸者さんもゆうに300人を超えていたそうです。

がしかし、社会情勢に伴い芸者さんもお客様も高齢化、そして料亭を必要とすることもなくなり次第に札幌見番名も消えつつ、現在は僅か一軒となりました。

私の知る料亭も4軒ほど消えてゆきました。


2016年に元料亭『さわだ』の女将・澤田啓子さんが、北海道観光振興機構会長に相談したことにより、日本5大都市である札幌の花柳界が消えかねないと危機感をおぼえ、道内の経済界有志十数名が立ち上がり、翌年の2017年に賛助会員を募り『さっぽろ芸妓育成振興会』を発足しました。

いわゆる法人・個人の寄付により札幌の和文化を継承し支えて守っていこうという、育成支援を行っている会です。


また、さっぽろ見番の名は代わり、澤田啓子さん率いる芸妓12名による団体は『さっぽろ名妓連』として生まれ変わりました。


ある時『金太郎姐さん』に「芸者の芸は芸ができるからこそ芸者なのよ」と、教えていただいたことがあります。

毎日、午前の早くからお稽古ごとに励み、その積み重ねをお客様に観て頂きます。


私は一昨年『お化けの会(節分)』の行事で芸者さんの白塗りと踊りを体験させて頂きました。

鬘は後ろ髪を引かれるように重いですし・・黒門付きの裾には綿もずっしりと重く・・。

所作は勿論のこと日々の積み重ねがあるからこそ、あのような妖艶で美しいうっとりとする舞を踊れるようになるのだろうと、身をもって痛感しました。



花柳界の世界には、私の文章で分かるように独特な言葉や言い回しもあったりします。

地方(ちほう)によって呼び名や仕組みもお稽古ごとの流派も其々に違います。

ちなみに京都の「舞妓(まいこ)さん」は、十六歳から二十歳位迄で、京都だけの呼び名です。


また、東も西も呼び名は違いますし、帯締めひとつルールがあったりもします。

そんな言葉を一つひとつ覚えたり、お座敷の遊びごとを芸者さんに教えて貰い楽しんだり、芸ごとの未知の世界をお着物やスーツ姿で一度体験して見ては如何でしょうか。


芸者さんの放つ香のかほりとともに、きっと魅了されることでしょう。




【立方(たちかた)=踊り】

【地方(じかた・ぢかた)=小唄や三味線、太鼓、鳴り物を弾く芸子さんのこと】

【芸妓(げいぎ)=芸子ともいう】

【名妓連=めいぎれん】

【半玉=はんぎょく=おおよそ19才まで】



<名妓連新会員 並び お座敷の問い合わせ先> はこちらまで。

さっぽろ芸妓育成振興会事務局 011−231−1330

札幌商工会議所観光課  広報担当:小福




( 絵 / Midori Kambara )




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