

中道盛之(なかみち しげゆき)
株式会社NAKAMICHI FARM 代表取締役
1981年 北海道砂川市生まれ 砂川育ち
現在、北海道でお米とキュウリをメインに農業を経営。
ほかにも米粉からあげの移動販売車や、東京に居酒屋「焼鳥 北良 -kitara-」を出店中。
仕事とは別で、毎週木曜日は地元のラジオ局でパーソナリティも担当している。
https://nakamichifarm.jimdo.com/
農家育ちの私は農業が嫌いだった。
「臭い、汚い、きつい」のネガティブ3拍子が揃っていたからだ。
しかも収入も毎年安定しないし、嫁ぐ人は苦労するとまで言われていた。
早朝、日の出と共に仕事を始め、日が沈むまで仕事をする。
それなのに二束三文の日々。
稲刈り用のコンバインは高いし、維持費も高い。
田植え機も、土を耕すトラクターも高い。
数百万~1千万クラス以上の物までかかるコストがバカ高い割に、利益が少ない農業に興味が無かった。
言ってしまえばハイリスク、ローリターンだ。
そこで私は高校卒業後、夢を叶えるために上京して音楽活動をした。
ライブ演奏、カラオケ音源を作成、インディーズのアーティストへオリジナル音源の提供など、様々な活動をしていたある日、
出会ってしまった。
30歳を過ぎたころ、地元の北海道へ里帰りをしたときだ。
父が栽培したお米が感動するくらい美味しかった。
大玉トマトも甘く、大根も梨のように甘くみずみずしい。
すべてが感動だった。
正直、都内で美味しいと言われるレストランや居酒屋など、食べ飲み歩いて「美味しい」を知っていたハズなのに。
精米したてのお米の抜群の美味さ。
完熟した採れたてのトマトの美味さ。
「別格とはこのことか」と思うほど、父が栽培したものすべてが美味しかった。

美味しさの秘密は、お米は籾貯蔵にあった。
普通は収穫後、籾摺りして玄米の状態で保存するのだが、父は籾摺りをしないでそのまま貯蔵していた。
そうすることにより、お米が休眠状態になり、味の劣化を防ぐのだ。
酸化を防ぎ、害虫からも防ぐ貯蔵法は昔からあった方法なのだが、貯蔵スペースを1.5倍必要とするため、この貯蔵方法は最近あまり見かけない。
しかし、100年続く中道ファームでは創業からずっと続く貯蔵法。
農業はネガティブな3Kなのに、父がそれでも農業を辞めなかった理由が少しわかった気がした。
【本当の「美味い」は人を必ず笑顔にする。】
まさに自分がそうだった。
父が栽培したお米も野菜も、美味しすぎて自然と笑顔になってしまったのだ。
スーパーなどで並んでいるお米や野菜もたしかに美味しいけれど、「採れたて」「精米したて」は本当にバツグンに美味い。
例えばとうきび(とうもろこし)は収穫した瞬間から味が劣化するので、収穫したその場で皮を剥いて生で食べてもらいたい。
寒暖差の影響により、糖度18度も超える北海道のとうきびなんてもはや穀物ではない。
「フルーツ」だ。
スイカ以上に甘く、シャキシャキっとした生のとうきびは人を夢中にさせる。
他にも大玉トマトは玉が青い状態で通常は収穫されて出荷されるが、木についたまま、赤くなるまでじっくり熟成させた状態で収穫するトマトは食べたことがあるだろうか。
通常、そんな状態になったトマトは「ハネ品」として扱われ、安く買い取られるパターンもある。最悪捨てられるなんてこともある。
その理由は出荷してスーパーに陳列されるまで1週間ほどかかり、それまでに腐ってしまうからだ。
だからトマトは青い状態で出荷する。
それは木から離れた状態で栄養補給が出来ないままトマトは赤くなるだけの話。
言ってしまえば「老化」に近い。味が鈍る。
しかしだ。
木についたままで、栄養補給が出来る状態で赤くなるトマトは本当の意味での「完熟」で美味しすぎる。
青臭さが無いトマトで、フルーティ。トマトの常識さえ覆される。
お米もそうだ。
精米した瞬間から酸化が始まり、味の劣化が進む。
だから精米したてのお米は本当の意味で美味い。
艶もあり、香りも良く、ご飯本来の美味しさに出会える。
美味しい北海道米の中でも極めて人気の高い北海道米「ゆめぴりか」は極限に美味い。
粘りと甘みのバランスも良く、おかずの美味しさを引き立たせる。
他にもコシがあり、喉越しの良い「ななつぼし」はアッサリ派の方にオススメ。
毎日食べても飽きの来ないそのお米は、酢飯、チャーハン、パエリア、お茶漬けなどに良く合う。
そんな美味しい北海道米の中でも個人的に好きな品種が「あやひめ」だ。
夏でも新米かのような艶、粘り、甘み、香り、全てがパーフェクト。
地元でも中道ファームでしか栽培していないとても希少なお米なのだが、これが一度食べたら忘れられない。
おかずがいらないと言う人もいるほど、お米の味が濃い。
噛めば噛むほど甘みが増し、冷めても美味しい。
お弁当やおにぎりにも合う。
北海道民でも知らない人が多く、本当に北海道米なの?と問い合わせが来るが、知る人ぞ知る「あやひめ」は北海道米なのである。
しかし、スーパーにはほとんど並ぶことはなく、やはり幻のお米なのである。

「美味しかった」その感動を届けるために、私は実家の後継ぎを決心した。
結局、「ありがとう」で成り立っているこの世の中で、音楽も農産物もオーディエンスを楽しませるという定義はジャンル問わず同じことなのだと気付いてしまったのだ。
いや、それはもう子どもころから知っていたことなのかもしれない。
好きな音楽を聴いている時も、美味しい物を食べている時も、人の笑顔には大切な誰かを喜ばせる力があること言う事を。
北海道にはそんな未知の力があります。
まだまだたくさんの「本当の美味い」があふれていますので、是非探してみてください。
あなたにステキな食卓を。
( 絵 / Midori Kambara )