心に刻まれるシーンのために



仲村 優果里(なかむら ゆかり)

脚本家

横浜在住。札幌生まれ札幌育ち。

夫の転勤で横浜へ。いろんなことを経て43歳で脚本家デビュー、現在もちんまり活動中。作品に「刑事110キロ」、「警視庁・捜査一課長」、「青春探偵ハルヤ」、「古舘トーキングヒストリー」、「ウツボカズラの夢」、「ふろがーる!」など。





「このへんでもう1人、殺しときますか」

「今回は全部で3人やってほしいんだよね」

「じゃあ青酸カリでいいですか? まだ半分残ってるので」


脚本家になりたての頃、深夜のファミレスでこんな物騒な打ち合わせをしていると周りの目が気になってドキドキしたものです。

デビューが刑事ドラマだったため、しばらくは事件ものが多かったのですが、時代とともに2時間ドラマ枠も減り、私自身も刑事ドラマから離れたので、最近は誰も殺すことなく平穏な日々を送っています。


私は40歳を過ぎてから脚本の勉強をはじめました。

きっかけは北海道にあります。


夫の転勤で30歳で横浜に来たものの、生まれ育った北海道が恋しくて仕方ありませんでした。

東京で新しい仕事もしていたし、それなりに楽しく過ごしていたのですが、窓から山は見えないし、空気は汚い、どこも混んでいて札幌のように会社帰りにスキーに行ってススキノに戻って飲むとかできない(今は年齢的に無理だけど)……。


ああ……北海道が恋しい。

心震える雄大な自然と気軽に対峙できる北海道に帰りたい。

でもハイジじゃあるまいし、毎日泣いてばかりはいられません。


そこで「東京でしかできないこと」をして北海道への想いを少しでも忘れようと、「東京といえばテレビ局→ドラマだ!」と恐ろしい短絡的思考で脚本家になろうと決めました。


当時、私が真顔でこの話をすると、ほぼ全員の顔に「こいつマジか」と書いてありましたが、帰心矢の如し、ベクトルを変えた郷愁エネルギーは凄まじかったらしく、3年後なんとか仕事にすることができました。

これもすべて北海道の力です。





不純な動機で始めた仕事ですが、北海道の魅力に匹敵するくらい素晴らしい経験や出会いがありました。その一つが、心から尊敬する師匠との出会いです。


数年前、その師匠を北海道に連れて行きました。

私があまりに「北海道、北海道」とうるさいので、「じゃあおすすめのところに連れていけ」といわれアテンドした旅です。


師匠は何百という2時間ドラマを書いた大ベテランなので、主だった名所はほぼシナハン(シナリオハンティング)で訪れていました。

どこへ連れて行こうか悩んだ結果、羽田から釧路に飛び、タクシーでオンネトーに行きキャンプをしました。私はオンネトーが大好きなのです。


特に朝、湖を見ながら飲むコーヒーは格別です。

ゴルフやススキノのつもりで来た同行者たちはア然としていましたが、師匠は存分に楽しんでくれたようです。


7月でした。

湖岸の倒木に腰かけて「ここが北海道で私が一番好きな場所です」と紹介したら、師匠は「そうか」と言って、地球にぽっかり空いた青い湖をしばらく黙って見ていました。

コーヒーが香り、静かで満ち足りた時間でした。


残念ながら師匠はその翌年に急逝してしまいましたが、あのオンネトーでのシーン(場面)は今も心に刻まれています。

人生にはそういうシーンがいくつかありますよね。

その一つとなりました。

いつか師匠に紹介したように、

私にとってかけがえのない大切なシーンとなったように、

北海道の魅力を伝えられる作品を書けたらいいなと思っています。


いつかきっと。

( 絵 / Midori Kambara )


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